2011年12月27日火曜日

変形性関節症の話

小さい講演会で変形性関節症の話がありました。

変形性関節症は、歳をとったり、運動や体重で関節に力がかかることで、関節の作りが壊れ、関節が痛くなったり、動かしにくくなる病気です。レントゲンでは、骨棘といって、骨の辺縁に棘が出来たり、関節の幅が狭くなったりします。

関節は、4型コラーゲン、ヒアルロン酸、プロテオグリカンで成り立っています。プロテオグリカンを作っているのがコンドロイチンやヒアルロン酸です。このプロテオグリカンが断片化したり、水分を含めなくなったりすることで、変形性関節症は始まります。

膝の変形性関節症は女性の方が多いと言われ、腰の変形性関節症は男性の方が多いと言われています。

国際的にはいろんなガイドラインがあるようですが、関節には血管が通っていないため、薬物を運ぶことも出来ず、根本的に治すには、人工関節を入れる手術しかないようです。手術の、費用に対する効果はバツグンで、一生内服を続けるより安いとされています。が、今後何年生きるかにも寄るでしょうから個人差があるでしょう。しかし、人工関節による運動の制限、使用期間とともに摩耗していくことは避けられないようです。今でもいろんな人工関節の種類が開発中のようです。

症状を緩和する方法はいろいろ勧められています。最も推奨されている治療は、姿勢などの教育、筋力トレーニング、体重を減らすことです。それから、痛み止め・・・COX-2阻害薬(セレコックス)やNSAIDs(ロキソニン)+プロトンポンプ阻害薬はどのガイドラインでも進められています。副作用を考えると、定期的に内服するなら、ロキソニンよりもCOX-2阻害薬の方が良く、その効果は胃カメラの所見で言うと2週間で差が出るようです。アセトアミノフェンは日本でも使える量が増え(1gまでOK)、湿布薬と共に、主な症状に対する治療になりうるようです。

ヒアルロン酸の関節注射のお薦め度は、人工関節やNSAIDsより劣り、重症度が弱から中の人に効果があると言われています。有名な論文では、偽薬(にせ薬)と同じくらい効果が「ある」、という結果があるようです。関節にヒアルロン酸を注射しても、注射がヒアルロン酸でなくても、痛みがとれ、しかもその効果は強い割合です。痛みがとれるなら、薬でも薬でなくても良いようですが、医療経済的に、と注射による合併症を考えると、残念ながらマイナスの要素が強いと思われます。グルコサミンやコンドロイチンの注射は、対症療法として使うならお勧め度は痛み止めの内服に比べると半分程度で、一部のガイドラインでは使わないことを推奨しています。

関節の研究は盛んに行われており、関節形成や破壊に関わるいろんな物質も見つかっていますが、関節に血流がないこともあり、副作用よりも大きい効果を得るには及ばないようです。

ヒアルロン酸注射が偽薬と同等に効果があるということに驚きました。偽薬も薬として使える日が・・・と思いましたが詐欺になってしまうでしょうか。外来でも出来る筋力トレーニングや姿勢、歩行などの教育方法を学ぶ必要があると思いました。

2011年12月20日火曜日

ワルファリンとダビガトラン

心臓が原因で起こる脳塞栓の予防治療は、血液が固まる機能を抑えることです。

血液の凝固機能を抑える薬には、ワルファリンが使われるのが一般的です。PT-INRという検査結果を指標に行います。70歳未満は2~3、70歳以上は1.6~2.6を目標にするというのがガイドラインですが、実際の現場ではPT-INR1.6では足りない印象があり、また、2.6では出血のリスクを考えて、PT-INR2.0弱を目標に細かく調整している様です。脳梗塞を起こした患者さんの平均PT-INRは1.2前後で、脳梗塞を起こした患者さんの8割以上の人が内服していない、もしくは内服していてもPT-INRが治療域に達していないようです。また、脳梗塞を起こしていない人でも、一般的には、3割くらいの人が治療域のINRからはみ出しているようです。

ワルファリンで凝固機能を抑えていると、脳梗塞を起こしても、起こした時の症状は飲まない場合より軽くてすむという結果があるようです。

ワルファリンの重要な副作用には、「出血」があります。消化管潰瘍からの出血、脳出血などです。

ワルファリンに抗血小板薬を追加すると、明らかに出血のリスクが上がることが分かっています。それでも併用を考える場合は、INRのコントロール良好でも脳梗塞が再発した場合、ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞、一過性脳虚血発作の既往がある場合、虚血性心疾患を合併している場合、身体にステントが入っている場合です。

ワルファリンでPT-INRのコントロールが良い人は、出血が止まりにくくなっているので、大きな手術や外部から圧迫出来ない内視鏡の処置などがある場合は、3~5日前に中止し、ヘパリンでコントロールします(APTT1.5~2.5倍まで)。術後は、ヘパリンとワルファリンを同時に再開し、PT-INRが治療域に入るとヘパリンが中止されます。最近では、抜歯や白内障手術でも内服は辞めない方が良いと言われています。中止すると、5/500例は血栓塞栓症を起こすと報告されています。

ワルファリン内服者では、抗生剤で血中濃度が上がることがあり、注意が必要です。

ワルファリンを使ってはいけない人には、出血するような疾患を持つ人、肝障害を持つ人です。

凝固機能を抑える薬として、ダビガトラン(プラザキサ)も最近選択肢の一つとして上がっています。講演会の話をふまえつつ、比較してみました。

ダビガトラン
75mg132.6円×2=265.2円/日×30日=7956/月 3割負担で2386円/月
110mg232.7円×2=465.4円/日×30日=13962/月 3割負担で4188円/月
ワーファリン
1mg9.6円 1日5mg飲むとしても48円/日×30日=1400円/月 420円/月
一桁違うのは辛いですね。

タビガトランのメリット
ワルファリンより脳血栓塞栓症の予防により優れている
頭蓋内出血が少ない
消失が早い(12時間)緊急時にはすぐ辞めれる
効果発現が早い(2時間)

デメリット
消化器症状が多い、しかしPPIは吸収が低下するので併用出来ない。H2 拮抗薬を使う。
消失が早い→1日2回→飲み忘れに注意
指標が要らない、採血要らない、痛くない、その分安くなる(?)
ワソランと併用出来ない
腎機能注意!!
消化器からの出血に注意。
一包化出来ない。湿気を吸うから。
1日2回のむ必要がある。
まだ14日しか処方出来ない。

頭蓋内出血は、アスピリン、クロピドグレル、ワーファリン、ベラパミル、アミオダロン、NSAIDsとの併用でリスクが上がる。また、血圧のコントロールが大切になってくる。

健康と、お金は比べられないと考えると、ダビガトランがおすすめです。しかし、ワルファリンから乗り換えるには、PT-INRの測定など、少々手間が追加されるようです。患者さんのライフスタイルに合った、薬の選択が必要そうです。

2011年12月13日火曜日

心臓が原因で起こる脳卒中

こちらも、講演会で聞いてきた話、+パンフレットをまとめました。

脳卒中には、脳梗塞(脳の動脈が詰まって血が途絶え脳細胞が死ぬ)、脳出血(脳の血管がもろくなり破れて出血する)、クモ膜下出血(脳動脈瘤や脳の動脈静脈の奇形が破裂してくも膜と脳の間に出血する)があります。

脳梗塞には、ラクナ梗塞(脳の細い動脈が詰まる)、アテローム血栓性脳梗塞(動脈硬化により比較的太い動脈が詰まったり狭くなったりする)、心原性脳塞栓症(心臓の中に出来た血栓が流れてきて脳の動脈を閉塞させる)があります。他に少ない割合で、動脈解離、もやもや病、血管炎、髄膜炎、経口避妊薬、凝固異常症などがあります。

心原性脳梗塞は脳梗塞の27%で、ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞とほぼ同等の割合を占めますが、他の脳梗塞より死亡や寝たきりなど重度障害となる割合が高いため、予防が重視されています。

心疾患による心原性脳梗塞では、抗凝固療法を行うための診断が重要となります。脳梗塞種類で、再発予防は異なります。ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞では血小板の機能を抑える薬を使います。心原性脳塞栓症では、凝固機能を抑える薬を使います。

心原性脳塞栓症を起こす心疾患では、心房細動が最も多いです。心房細動をもつ患者さんには、高血圧症、冠動脈疾患、心不全、慢性呼吸器疾患、甲状腺機能亢進症、弁膜症があります。心房細動が見つかったら、まずは基礎疾患を確認し、あれば治療する必要があります。

心房細動には、発作性心房細動(発症7日内で自然に停止する)、持続性心房細動(発症7日以上持続し除細動が可能)、永続性心房細動(除細動が不可能)があります。いずれの心房細動も、脳梗塞を起こす危険度は変わらず高いです。除細動というのは、薬や電気ショックで正常な心臓のリズムに戻すことです。

若い人で、脳梗塞を起こすリスクがなく、心機能に問題なく、心拍数が正常範囲であれば、薬を飲まずに経過を見ることができます。しかし、1年に1回はそれらの条件を変わらず満たしているか病院で確認する必要があります。

自覚症状がある、心不全を起こしそうもしくは起こしている場合には、除細動を行ったり、薬で脈拍数を減らしたりします。脈が少ない心房細動で、失神などの症状があるときは、ペースメーカーを植えこむ必要があります。

一番の問題は、心不全を起こさないための治療に加え、脳梗塞を予防することです。心臓のリズムや脈拍数をコントロール出来ていても、この治療は必要です。心不全(1点)、高血圧(1点)、年齢75歳以上(1点)、糖尿病(1点)、脳梗塞や一過性脳虚血発作(2点)のいずれかがある人、特に2点以上の人は、凝固機能を抑える治療を考える必要があります。

1年間に脳梗塞を起こす確率は、0点で1.9%、1点で2.8%、2点で4.0%、4点で8.5%、6点で18%と高くなります。起こした時の重症度は点数とは関係ないそうです。

凝固機能を抑える薬は、現在ワルファリン(ワーファリン)が主流ですが、ダビガトラン(プラザキサ)も最近選択肢の一つとして上がっています。凝固機能を抑える薬は、メリット、デメリットのバランスが難しいですが、やはり、脳卒中の予防として必要なお薬です。

ちなみに、昨日の医局会では、ワーファリンの内服量が変わらず、安定している人のINR確認の採血は、3ヶ月に1回も1ヶ月に1回も変わらないと思われる論文が紹介されました。2年間の短期間試験ですが、血液検査も少しですが侵襲ある検査ですから、必要以上の検査はしないよう心がけます。

2011年12月6日火曜日

ステロイドで起こる糖尿病の話

佐賀学会の続きです。

ステロイドは糖尿病を起こします。ステロイドの糖尿病には、インスリンが効きにくい体質があること、食後に高血糖を起こすことが多い、血糖は昼以降上がってくる、尿に糖が出やすいという特徴があります。なので、ステロイドの糖尿病に早く気づくためには、血糖測定は空腹時ではなく、適当な時間、特に午後の測定が良いようです。また、尿に糖が出ているのに血糖の数値が正常という場合も、測定のタイミングを変えて測定するなど、注意が必要です。

ステロイドによる糖尿病は、投与量より投与日数が大切です。3ヶ月で3人に2人は糖尿病を起こし、1年間でほとんどの人が糖尿病になると話されていました。が、投与量も投与日数ほどではないけど関係はしている様です。また、沢山の病院を受診されている方で糖尿病が急に悪化した方は、整形外科で関節にステロイドを注入していたりすることがあるので、私たちは病歴をきちんととる必要がありますし、患者さんも自分が受けている治療について知っておく必要があります。

ステロイドで糖尿病になっても、膵臓から出るインスリンの量が保たれていれば、内服の減量と共に元に戻れます。しかし、ステロイドの内服が長期必要となってくると、なかなか難しいというのが現状のようです。ステロイド20mgまでの内服は、経口の糖尿病薬(アクトス、メルビン、インクレチン製剤)でコントロール出来るようですが、それより増えるとインスリンの自己注射を使うことが多いようです。血糖は昼食後に上がってくることを念頭に置き、午後のインスリン量を増やします。ステロイドを減らした時は、インスリンが聞き過ぎて低血糖に注意し、同時にインスリン量も減らす必要があります。

注射のステロイドの方が副作用が少ないという報告があり、内服の方が簡便ではありますが、ステロイドの長期投与が必要な人は、注射の期間を延ばしても良いのではないか、という提言もありました。

入院中と家での療養の感染の危険はどちらが高いか、という質問がありましたが、これは未解決のようです。

私の内服量では、感染の危険が上がることはなさそうですが、骨折と糖尿病の危険はやや高めと思われます。B型肝炎ウイルスは測定済みですので大丈夫。骨密度の定期的な測定と食後の血糖は気をつけてみておこうと思いました。

それから、ステロイドの副作用の話がメインになってしまいましたが、ステロイドが、多くの病気に有効で、変わらず貴重な薬であることは確かです。下手に焦らず、お医者さんと相談して薬の量を調整したり、副作用を予防したりすることが大切です。急な中止は厳禁です!